単発派遣バイトの方は、扶養内で働いている方が多いと思います。
しかし税金を取られず得だと聞いているからという理由だけで何となく「扶養内」で働いている方もいるのではないでしょうか。
この記事を読んで「扶養内で働く」ことの意味を理解し、自分は今後どう働いて稼いでゆくべきかを見直してみましょう!
税金と社会保険、扶養には2種類ある
扶養とは、自身の稼ぎで生計を立てられない家族や親族に対して、経済的な援助を行うことをいいます。
ここでは「自分(妻)が夫の扶養になる」として解説してゆくことにします。
まずは、扶養には2種類あることを理解しましょう。
2種類の扶養
- ①税制(所得税・住民税)上の扶養
-
税制上の扶養とは「夫が妻を扶養に入れることで配偶者控除や配偶者特別控除を受けることができる」ということです。これによって年末調整や確定申告で、夫の所得税や住民税を安くできます。
- ②社会保険上の扶養
-
社会保険(健康保険)とは、「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」の5つの保険制度の総称です。
社会保険上の扶養とは、夫が妻を扶養に入れることで、妻は健康保険料や年金保険料を支払わなくても健康保険に加入できたり、年金を納めたりしたことにできるということです。
妻がパートやアルバイトで収入を得ると、勤務条件によっては社会保険に加入する義務が発生します。社会保険に加入すると、健康保険料・年金保険料が給与から天引きされて手取り額が減ってしまいます。そのため夫の扶養に入った方が得になるというわけです。
年収の壁
扶養とは「税金に関すること」「社会保険に関すること」の2種類あることは理解できたでしょうか。
次は、扶養される人の年収額によって適用となる仕組みが異なることも学んでみましょう。
年収 | |
---|---|
103万円超 | 税金の配偶者控除が受けられなくなる。103万円を超えた分に所得税がかかるようになる。 |
106万円超 | 従業員51人以上の会社の場合、社会保険の扶養に入れなくなる。 |
130万円超 | すべての人が社会保険の扶養に入れなくなる(全員社会保険に加入)。 |
150万円超 | 税金の配偶者特別控除が満額受けられなくなる。 |
130万円超の「社会保険の扶養に入れなくなる」というのはつまり、自分自身が社会保険に加入しなければならなくなる、ということですか?
はい。そういうことです。自分が勤務している会社の社会保険に加入し、社会保険料が給料から天引きされるようになります。
では、それぞれの「年収の壁」について詳しく見てみましょう。
103万円の壁とは
まずは「103万円の壁」。
自分の単発派遣バイトの給与収入が103万円以下であれば、夫は38万円の「配偶者控除」を受けることができます。また、自分も103万円以下の所得であれば税金はかかりません。
・給与103万円
・控除額103万円(給与所得控除65万円+基礎控除38万円)
給与103万円-控除103万円=0円 よって所得税0円。
しかし配偶者控除は、自分の収入が103万円以上になると適用できません。また収入が103万円を超えると、所得税がかかるようになります。つまり、給与収入が103万円以下であれば、夫は配偶者控除で節税でき、自分の所得税がかからない境目となります。
なお、夫の給与収入が1120万円を超えると控除額は段階的に減額され、1220万円を超えると控除対象外となります。
106万円の壁とは
自分が従業員数51人以上の企業で働いている場合、次の要件を満たす場合は社会保険に加入する必要があります。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 継続して2か月以上雇用される見込みがある
- 月額8.8万円以上の給与(交通費含まず)
- 学生ではない
健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つの社会保険のうち「雇用保険」は従業員数関係なく、労働時間(週)20時間以上・勤務期間(見込み)1か月以上という条件を満たせば加入することが出来ます。
保険料は賃金の1.5%、会社と折半なので自己負担は0.6%です。
少ない保険料で失業手当・育休手当・教育訓練給付金をもらえるのでお得ですね。
週20時間労働で月額8.8万円を超えない方は、社会保険(健保・年金・介護)には加入せず、雇用保険だけ加入することができます。
しかし最低賃金が上がっている中、社会保険(健保・年金・介護)には加入せず、雇用保険だけ加入するということが難しくなってきています。
いずれにせよ、単発派遣バイトで働いている場合は、社会保険加入の条件には当てはまりません。
社会保険に加入しないって良いことなんでしょうか。それとも良くないことなんでしょうか。
社会保険料を負担する必要はなくなるので単純に手取りは増えます。しかし社会保険に入るメリットもあるので、一概にどちらが良いとは言えません。
単発派遣バイトだけではなく、短期・中期・長期派遣でも働いてみたいなという方に、社会保険に加入するメリットもご紹介しますね。
- (1)医療保険の保障が手厚くなる
-
夫の扶養家族であれば対象外ですが、健康保険に加入することで傷病手当金、出産手当金を受け取ることができます。
傷病手当金とは、病気やケガで仕事を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に休業中の生活を保障するため支給されるお金です。また、出産手当金は、出産のため仕事を休むとき、事業主から十分な報酬が受けられなかったときに、出産日前42日から、出産日後56日間まで仕事を休んだ日数分が支給されるお金です。
どちらの保障も、ざっくりと給与の3分の2が支給されます。
- (2)障害厚生年金が支給される
-
病気やケガで障害を負ってしまった場合、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金を受け取ることができます。障害年金は、障害の状態のままであれば継続して支給されるため、万が一のときはとても助かります。
- (3)将来受け取る年金が増える
-
厚生年金に加入するので、将来受け取る年金が増えます。
※「仮に月額88,333円(年106万円)働いた場合」を参照のこと
尚、103万円を超えた分に所得税もかかるようになります。
仮に年収が106万円だったとすると、3万円に所得税がかかります。
所得税の計算はこのよになります。
30,000円×所得税率5%=1,500円
年収106万円だと所得税は1,500円です。
手取り(年間) 約-9万円
将来年金(年間) +1.5~2万円
社会保険に加入することで元が取れるのは約6年後になります。
※概算です。
将来受け取る年金が増えるといっても、元がとれるのは6年後かぁ。
長生きできればいいけど…。
社会保険・所得税は取られますが、収入は増えますので損得考えずに働きたいだけ働くのもいいかと思います。働きながら自分の生活と税金を見つめて、少しずつ自分の最適解を見出してゆくと良いでしょう。
130万円の壁とは
「106万円の壁」で挙げた条件に該当しない場合でも、給与収入が130万円を超えるとすべての人が社会保険に加入することになります。
※2023年10月「年収の壁・支援強化パッケージ」により、条件を満たすことにより連続2年間は扶養のままでいられるようになりました。詳しくはこのページの最後に記載しています。
ただし、年収が130万円以下であっても、月収108,333円以下(通勤手当も含む。)という扶養の条件がある場合があるので(例:夫が公務員)、扶養内で働く際には夫の勤務先に確認してください。
150万円の壁とは
自分の給与収入が103万円を超えた場合、夫は「配偶者控除」を受けられませんでした。その代わり、150万円までであれば夫は「配偶者特別控除」を受けることができます。配偶者特別控除は、自分の給与収入が150万円を超えると徐々に少なくなります。
150万円の壁とは、夫の配偶者特別控除を満額の38万円を受けるための、自分の年収上限が150万円ということです。
※満額38万円の控除を受けるには、更に夫の所得が900万円以下(自営の場合は収入から経費を引いた額、サラリーマンは給与収入1095万円以下)である必要があります。
なお、自分の年収が150万円~約201万円になると、配偶者特別控除は適用となりますが段階的に減額されます。
「配偶者控除」と「配偶者特別控除」。ややこしい~。
交通費は年収に含まれるのか?
交通費が年収に含まれるかどうかは「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」かで異なります。
税制上の扶養:交通費は含まない
社会保険上の扶養:交通費を含む
※ただし税制上の扶養の場合でも、1ヶ月あたりの公共交通機関にかかる通勤手当が15万円を超えると、超えた分の通勤手当を年収に含む必要があるので注意しましょう。
※「106万円の壁」は社会保険上の扶養に関する壁ですが、社会保険加入の要件である「月額8.8万円以上の給与」の中には交通費は含まず計算します。
家計をしっかり支えたいのか、隙間時間を有効活用したいのかを決めよう
まとめ
いかがでしたか?
扶養や年収の壁について、少しは理解できるようになったでしょうか。
扶養には2種類あるということ、壁が色々あること、更に夫の年収も関係するので超複雑なんですよね。
でも順を追って説明してくれたおかげで、だいぶ理解が深まりました。
理解できたとしても、仕組みや計算が複雑であることは変わりません。
「どうするのが一番お得か」を考えると迷路に迷い込んでしまいかねませんね。
まずは中・長期派遣でがっつり働いて稼ぎたいのか、それとも家庭中心の生活をしつつ、隙間時間を有効活用したいのかを決めましょう。
このブログを読んでくださっている方は、単発派遣で働いている・働きたいという方が多いと思います。
その場合で家計に余裕がある方は、まず106万円の壁を意識して働いてみましょう。
「隙間時間を有効に活用しつつ、出来るだけ収入も多く得たい」方は、多少手取りは減るけれど収入は増えるので、130万円まで働くのも良いと思います。
「年収の壁・支援強化パッケージ」
最後に。
人手不足の中、時間はあるのに「扶養内」で働く人も多いのが現状。それを打開すべく、政府は「年収の壁対策」を行おうとしています。
【106万円の壁への対応】
要件 | 助成額 | |
---|---|---|
1年目 | 賃金の15%以上追加支給 (社会保険適用促進手当) | 20万円 |
2年目 | 賃金の15%以上追加支給 (社会保険適用促進手当)かつ 3年目以降賃金(基本給)の18%以上増額の取組みを行うこと | 20万円 |
3年目 | 賃金(基本給)18%以上増額 | 10万円 |
社会保険料は賃金の30%です。会社と折半なので、自分で払う分は15%。
つまり、106万円を超えてしまい、払うことになってしまった分の社会保険料をもらえるということですね。
【130万円の壁への対策】
繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みです。
いずれにせよ、単発派遣バイトの方は自分の意志で収入をコントロールできるので、この例外にはあてはまらないでしょう。あてはまる方で気になる方は、お勤めになっている企業へ問い合わせてみてください。
今後の政策に注目ですね。
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